夜の街で、ひっそりと営業する「よもぎ食堂」。ここには、近くの店で働くホスト達が仕事終わりにやってくる。食堂を切り盛りする‘いちろ’は真面目な青年で、お世辞にも接客が得意とは言えなかった。「おにいさん、俺らのこと嫌いだよね?」ホストクラブのNo.1だという誠一のことが、いちろは特に苦手だった。ヘラヘラとした笑顔からは感情が読めない。そのくせ妙に鋭くて、馴れ馴れしくて、何かと気に障る相手だった。「嫌いだけど、手抜きの料理を出さない。アンタの誇りがそうさせない」けれどたった一言が、それまでの印象を一変させることがある。なぜか熱くなる頬には、知らないフリをした。