たとえそれが、人でなかったとしても。これでも私は、身のほどはわきまえているつもりである。武器修理ロボットとして、この世に産まれた命。本来であればその機能を駆使して人間に貢献することが、機械知性の本懐とも言えるだろう。しかし、どうもおかしい。人類のほとんどが消え去った地上。主人であるハルとの、二人きりの旅路。自由奔放な彼女から指示されるのは武器修理のみに留まらず、料理に洗濯と雑務ばかり。「やるじゃねえか、テスタ。今日からメイドロボに転職だな」全く、笑えない冗談である。しかしそれでも、ハルは大切な主人であることに違いはない。残された時を彼女のために捧げることが、私の本望なのである。AIMD――論理的自己矛盾から生じる、人工知能の機能障害私の体を蝕む、病の名である。それは時間と共に知性を侵食し、いつか再起動すらも叶わぬ完全停止状態に陥るという、人工知能特有の、死に至る病。命は決して、永遠ではないから。だから、ハル。せめて、最後のその時まで、あなたとともに――。第11回小学館ライトノベル大賞ガガガ大賞を受賞した『平浦ファミリズム』の遍柳一がおくる、少しだけ未来の地球の、機械と、人と、命の物語。※「ガ報」付き!※この作品は底本と同じクオリティのカラーイラスト、モノクロの挿絵イラストが収録されています。