福永自ら処女作と呼ぶ『小説風土』を初出版から決定版まで全4種を完全収録。対照により筆者苦心の手入れ痕も確認できる。福永自ら処女作と呼ぶ長篇『小説風土』は、1941年から起筆され、完全版として全貌が発表されるまで16年の歳月を経た作品。関東大震災と第2次世界大戦という2つの歴史的大事件に挟まれた16年間。世界が激しく揺れ動いたこの時代、日本という風土に生まれ育った画家・桂の思索、苦悩、そして、片時も忘れえなかった昔の恋人・三枝夫人との再会、その愛の悲劇を通して人生の深淵に迫った力作。若き頃より親しく読み込んだ内外の小説の中でも、特に日本の小説に強い不満を抱いていた福永が、「自ら一つの實驗を試み」として書き始めたものであった。今巻では、紙版の全集では不可能な、電子全集ならではの特徴を生かし、『小説風土』の以下の4種の本文を省略なしに全文完全収録している。しかも、附録として収録した「本文主要異同表」により、初出→省略版→完全版という各版の本文異同から各本文を対照することにより、福永苦心の手入れ痕を確認できる特別な構成となっている。・雑誌初出文:「方舟」(1948.7-9)と「文學51」(1951.5-9)・初刊版:第2部全体を省略した通称「省略版」(1952.7)・完全版:初刊版に第2部を増補した「完全版」(1957.6)・決定版:1968年刊の当作品を「決定版」と称するが、当電子全集では、最終手入れのある新潮社刊「福永武彦全集 第1巻」(1987.9)本文を「決定版」とする。その他、付録には、「風土構想ノート」や「直筆手帖1948」より「小説 風土」関連メモなども収録している。※この作品はカラー写真が含まれます。