「いってきます」 そう言ってあの子はこの町を飛び立っていった。こんなにも美しい‘ぬけがら’だけを残して。恋愛小説アンソロジー『最低な出会い、最高の恋』で小説デビューした声優・夏川椎菜が、自身の写真集『ぬけがら』をモチーフに書き下ろす、切なくて爽やかなとびきりの青春小説!「なんで恋もしたことないのに、恋愛小説なんか書いちゃったの?」そう聞いてきた彼女の目はまっすぐだった――。これは、僕の小説の初めての読者となった名前も知らないお姉さんと、まだ恋を知らなかったころの僕の話。(「初恋のシャンプー」)毎週月曜と水曜の仕事帰りは‘銭湯の日’と決めている。熱い湯は仕事でたまった鬱憤を洗い流してくれるからだ。そして、湯上りに欠かせないのが、瓶入りのコーヒー牛乳と、番台に突っ伏して出迎えてくれるお団子頭の‘バイトさん’なのである。(「匿名銭湯小噺」)私は才能より人脈を買われる方の人間だった。そんな私に「タカビシャさんの‘写真’じゃなきゃ、イヤです!」そう叫んで相棒の座についたパッチ。立ち止まったままの相棒に、いま私ができること、いや、私にしかできないこと、それは……。(「タカビシャとパッチ」)妻を亡くしたとき、私の時間は止まってしまった。それからすぐに、我が家で居候をはじめた孫娘。その日々は騒がしく寂しさを感じる暇もなかった。だが、憧れの仕事に就いたばかりの孫が、突然「会社を辞めてきた」と部屋に籠ってしまい――。(「私と孫の古時計) この作品は、読みたい物語がある! 物語投稿サイト『monogatary.com』(モノガタリードットコム)がお届けする電子オリジナル作品です。<収録内容>「ぬけがら」プロローグ/初恋のシャンプー/匿名銭湯小噺/タカビシャとパッチ/孫と私の古時計/エピローグ特別収録:「16時50分」(投稿サイトmonogatary.com掲載作品を収録)「16時50分 sideB」