孤独な青春時代、唯一の気晴らしは落語だった。中学卒業を機に、風月亭鏡生に師事することを決め、和歌山の漁港の町から単身、上京した瞬。鏡介という芸名を得、鏡生の内弟子として住み込みで前座修業に励み、青春をただひたすら、落語に捧げる。修業のきびしさに堪えられず去って行く兄弟子、師匠のお嬢さんへのほのかな恋心、きびしい規律をもとめられる保守的な芸の世界への反発や、自身の才能の壁との葛藤……。やがてテレビ業界から声がかかって浮わついた鏡介に、師匠は非情にも破門を言い渡す。すさんだ心のまま、海外を彷徨うものの最後に辿りつく心のよりどころは、やはりいつでも落語だった――。芸事の厳しさと、いつの世も変わらぬ人間の情。さすらいの噺家の‘業’を描ききった型破りな青春落語小説!