退屈を書くとは、いったいどういうことだろうかなんという、人を食った短篇小説だろうか。ここには1人の男性と1人の女性が出てきて、しかもわざわざ展望台のような場所で会ったりするというのに2人は互いにまったく惹かれあってはいない。しかしそれでも2人には、待ち合わせの場所に行くだけの通俗的で不可思議で「退屈」なモチベーションがあるのだ。女性と男性は、こんなふうに約束したり、会ったりすることもある。しかし作家の描くタッチは、シニカルなものではなくこうしたこともある、という淡々とした風情を備えていて、そこがまた怖ろしい。【著者】片岡義男1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。