彼の悲しみは彼のものなのだ。でもよく似た悲しみを、私もまた知っている。選考委員全員が○を付けた、オール讀物新人賞受賞作を含む鮮烈なデビュー作。この人は、ただひたむきに人間の再生を描こうとしている。どの一編にも、心が救われる瞬間が、深く刻まれていた。――白石一文〈著者コメント〉傷ついている人、立場の弱い人、大切なものを失った人。どこにでもいるけれども、悲しみを抱えているとは傍目に分からない人たち。そんな人々にスポットライトを当てて、彼らがそれぞれの救いをつかみとっていく道筋を、五つの物語の中に描き出しました。どの物語の最後にも、必ず、彼らなりの光が待っています。なんだか疲れてしまって、昨日までカラーだった世界が、急に彩りを失ったように感じるとき。ひとりぼっちで、何もかもがモノクロの世界の中へ、迷い込んでしまったように感じるとき。どうかこの本を開いてみてください。読んでくださった方の視界にもう一度、豊かであたたかな色彩が戻ってくるように、そんな願いを込めて書き上げた作品達です。〈著者プロフィール〉香月夕花(かつき・ゆか)1973年生まれ。大阪府出身。京都大学工学部卒。2013年「水に立つ人」で第93回オール讀物新人賞を受賞。