稀代のストーリーテラー壺井栄が紡ぐ島の物語には、私たちがなくしてきた人の暮しが息づいている。キクにはどういうからくりで世の中に景気や不景気がやってくるのか、知るすべがなかった。しかし、戦争のあとには必ずその不景気がめぐって来るのだということだけは分かった。二度も夫をなくし、キクが十数年ぶりに娘が生んだ私生児の孫とともに島に戻って来た。住み込みで役場の小使いとして、雨風をしのげる小部屋をあてがわれ、孫を背負い遊ばせながら働けるのは、何もなくなったいまのキクには、誰に対しても有り難うござんすと、笑顔を向けなければならない境涯であった。【著者】壺井栄小説家 1899年 - 1967年香川県小豆郡坂手村(現内海町坂手)生まれ。坂手郵便局や役場勤務後、同郷の壺井繁治を頼り1925年に上京。 以後東京。1941(昭和16年)『暦』が第4回新潮社文芸賞を受賞。1955(昭和30年)『風』で第7回女流文学者賞を受賞。『母のない子と子のない母と』で第2回芸術選奨文部大臣賞を受賞。1954(昭和29年)映画「二十四の瞳」(木下恵介監督、高峰秀子主演)が公開され、全国的ヒットとなり、小豆島と壺井栄の名が一躍クローズアップされる。