思わぬ事故で船から海に投げ出された青年は奇跡的に無人島に漂着する。南の島で自然の試練にさらされながらも、自然と一体化する至福を知ることになる。それは、「まるで地上を離れて高い空の上で、成層圏で暮らすようなものだった。」やがて文明社会に戻る機会を得るが……。島の精霊たちとの交感、プリミティブな暮らしの深淵な充足感が描かれる一方で、人々が去ってしまった楽園の影に映る「暴力」の歴史も示唆される。文明というものへの懐疑と人間の性を美しい小説に描き上げた、池澤夏樹の長篇デビュー作。【著者】池澤夏樹:1945年北海道帯広市に生まれる。小学校から後は東京育ち。以後多くの旅を重ね、3年をギリシャで、10年を沖縄で、5年をフランスで過ごして、今は札幌在住。1987年『スティル・ライフ』で芥川賞を受賞。その後の作品に『マシアス・ギリの失脚』『花を運ぶ妹』『静かな大地』『キップをなくして』『カデナ』『アトミック・ボックス』など。自然と人間の関係について明晰な思索を重ね、数々の作品を生む。2014年末より「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」全30巻の刊行を開始。