心待ち。この美しい言葉を最大限に生かすようにこの短篇は書かれている。梅雨の東北地方。オートバイでツーリング中の男は21歳。ガソリンスタンドで働く女は18歳。オートバイには2人乗ることができるから、2人は海に向かうことができる。その時間の輝き、その記憶が失われることのないように、ちょっとしたやりとりの、ある仕掛けがなされる。やがて夏が終わり、男が消え、心待ちが残るだろう。【著者】片岡義男1939年東京生まれ。早稲田大学在学中にコラムの執筆や翻訳を始め、74年『白い波の荒野へ』で作家デビュー。75年『スローなブギにしてくれ』で野生時代新人賞を受賞。ほか代表作に『ロンサム・カウボーイ』『ボビーに首ったけ』『彼のオートバイ、彼女の島』など多数。