薬師の文梧は、記憶を失った白皙の青年・主水と旅をしている。30年前、平穏なこの地は一変した。青山領の民が突然変異して「鬼」となり、小寺領の民を襲い血を吸って殺すようになったのだ――。彼らは、故郷から逃げ出し、身を潜めて暮らしている小寺の民を救うべく、山々を巡っているのだ。一方、今から3年前。小寺の若き領主・菊は、屈託なく笑う勇敢な少年・元信に窮地を救われる。青山の餌食となっている領民を護るため、もっともっと強くなりたいと願っていた菊は、元信に願い出て剣術を教えてもらうことにした。やがて惹かれ合う2人。けれどそれは、禁忌の恋に他ならなかった……。――旅の途中、文梧と主水は竜胆という少女と出会う。竜胆はかつて仕えていた領主・菊を捜していた。菊は3年前、青山領に捕らわれたのだ。旅を共にすることになった3人だが、やがて文梧は「一枚、二枚――」と何かを数える謎の声をしばしば聞くようになる。心にこびりついて離れないその声を聞くたびに、文梧の胸はざわついて……。出逢ってはならない者たちが出逢う時、物語は動き始める。待ち受けるのは、如何なる運命か――。第5回角川文庫キャラクター小説大賞〈優秀賞〉受賞作!選考会でも「筆力がある」「作り込まれた世界観でぐいぐい読んでしまった」「熱量を感じる」と絶賛を受けた作品がついに刊行!イラスト/月岡月穂