終戦直後の昭和二十一年の初め、最高司令官総司令部(GHQ)の方針に従い、国会内の委員会で政府試案をまとめたが、GHQは拒否。そればかりか、GHQ憲法改正案を押し付けてきた。この案を翻訳し、日本の法律らしく形を整え、新憲法の下敷きにせよ、というのだ。わずか二週間で翻訳にあたることになったのは、内閣法制局の佐藤達夫。吉田茂外相と話す機会を得た佐藤は、GHQ案の問題点をまくしたてる。それを聞いた吉田は、佐藤に言った。「GHQは何の略だか知っているか? ゴー・ホーム・クイックリーだ。『さっさと帰れ』だよ。総司令部側が満足する憲法案を早々に作っちまおうじゃないか。国の体制を整えるのは、彼らがアメリカに去って、独立を回復してからだ」終戦直後、日本は自治権を失った。この小説は、昭和天皇の戦争責任をたてに、GHQから、憲法改正案を押し付けられようとも、未来の日本国民のため、日本という国家の矜持のため、懸命に戦った官僚と政治家たちの熱い物語である。かつて司馬遼太郎は、『坂の上の雲』で、明治という時代の明暗と、近代国家誕生にかけた人々の姿を小説にした。自らの保身しか考えない官僚と、未来へのビジョンを提示しない政治家がはびこる現代だからこそ、著者は、「国のために戦った」男たちの姿を描いた。