紅地に金糸など色糸の唐花模様という下半身。山鳥の毛を植えた濃い藍色地に、背面いっぱいに白毛で織り出した揚羽蝶が、上半身。そして、上の鳥毛と下の裂地とは巧みに繋がれている(中略)。「そなたが立てたと申すか」「むろん京の職人に織らせましたが、意匠はすべてわたしが……」 衣桁にかけられたその陣羽織を眺めながら、信長が驚き、帰蝶は含羞んだ。「わたしも殿とともに戦陣にありたいと願うたのでございます」「それゆえの蝶よな」「はい。殿がこの蝶に守られ、ご無事でわたしのもとへお帰りあそばすように」「であるか」 信長は微笑んだ。「ならば、初めて用いるのは、わが嫡男が生まれてから最初のいくさといたそう」 と帰蝶の膨らんだ腹へ、信長は手を置いた。「そして、この子の元服祝いに譲り与える」「嬉しゅうございます」 仲睦まじい若き夫婦は、互いの顔を寄せ、唇を温かく濡らし合った。(本文より)