この小説は池澤夏樹の母方の先祖の長大な物語である。明治初年、淡路島から北海道静内に入植した宗形家には両親とともに幼い三郎と志郎の兄弟がいた。植民者のふたりの息子は北海道で知り合ったアイヌの友人たちとともに成長し、牧場を開く。志郎の娘の由良が亡き伯父の三郎の一生を、さまざまに関わった人の記憶から呼び出し、歴史の記録を重ねあわせて物語を推進する。それはアイヌとともに辿った先祖を歴史的な事実を下敷きにして物語る池澤夏樹の視線でもある。その視線は当時と現在とを貫く鋭い矢である。朝日新聞朝刊に2001年6月12日から2002年8月31日まで連載され、2003年に単行本として出版された。第3回親鸞賞受賞作。