掴めないはずの感覚を捉えた瞬間の心地良さ。それが集積して立ち上がる日常をとても愛おしく感じました。―又吉直樹第一歌集『夜にあやまってくれ』で鮮烈なデビューを果たした著者、待望の第二歌集。わたしとあなた。心と躰。繋がっては離れ、私たちは、世界をひらく鍵を探しつづけている。2016年以降に詠まれた短歌のうち、『短歌ください』掲載作を含む297首を収録。思い出は増えるというより重なってどのドアもどの鍵でも開く生体認証。指紋や眼球や顔が暗号になるように、歌を作ることで入れる世界がある。歌を詠み、歌に詠まれた心身は、そこでは鍵の役目を果たしてきた。自らの欠片を差し出すことで、ドアをこじ開けてきたのだ。でも、少し醒めた時には、こんな風にも考えてしまう。はたして、世界は世界の方で、そんなわたしの押し付けがましい断片を望んでいるのだろうか、と。心許なく、世界に問いかける。わたしのなにがめあてですか? この歌集におさめた歌は、そんな世界との相聞の苦闘の跡だ。──「あとがき」より〈収録短歌より〉白ければ雪、透明なら雨と呼ぶ わからなければそれは涙だ君は手の銀貨を天然水に変えその水はすぐ人間になる文字のない世界に降っていた雪よこれからつく嘘にフォントあれまたここにふたりで来ようと言うときのここというのは、時間のことライターのどこかに炎は隠されて君は何回でも見つけ出す目次Iここにいるしかかくまう完璧なバタフライ書かれることのなかった手紙メロンパンの概念の初期化丸ノ内線ですかちょっと違うII不思議に思わない滲み込むようにできている雪かと思った見たこともない色明日には明日のニュースIII裸より寒い夜ごとのフルーツバスケット別々の歩道橋から飛び続ければ心がめあて偽善者になるには一日は短い失うのとは違うあとがき