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吾妻おもかげ

絵師を目指し、安房から江戸に出て十年。
菱川吉兵衛は、吉原と芝居小屋という「二大悪所」に入り浸る自堕落な日々を過ごしていた。
狩野探幽への弟子入りを門前払いされたものの、その面目なさから郷里の縫箔屋の跡を継ぐ決心もできずにいたのだ。
そんな中、ひょんなことから吉原の女たちの小袖に刺繍を施すことに。
福良雀と笹の葉、波千鳥、吉祥文様の宝珠、玩具の手毬や扇子に草花。
さまざまな美しい意匠を縫い付けながら、吉兵衛は、未来の見えない辛い日々の中でも懸命に明るく生きようとする彼女たちの心の温もりに励まされ、再び筆を執ることを決意する。
だが、ある日突然巻き起こった大火に吉原と江戸の街が飲み込まれ……。
江戸の人々の暮らしを見つめ続けた菱川師宣こと吉兵衛が本当に描きたかったものとは?浮世絵の祖の生涯を描く、人情と愛に満ちた波瀾万丈の浮世絵師小説。




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