鍵盤に手を置くと指が自然とメロディーを奏でる。<br />弾けないはずのピアノなのに、まるで魔法のように。<br />そして桂は思い出す。<br />会えないはずの少女に会った記憶を(「別れの曲」)。<br />かすみ草を使って優しいお見舞いの花束をつくる木太郎。<br />届け先は老いたパティシエがひとり住まう家。<br />彼には遠い日に亡くした愛娘がいた(「火車」)。<br />哀切で愛らしく、ほのかに怖い短篇集。<br />