十一歳のおけいは泣きながら走っていた。<br />日本橋通旅籠(はたご)町の太物問屋・巴屋の長女だが、母は美しい次女のみを溺愛。<br />おけいには理不尽に辛くあたって、打擲したのだ。<br />そのとき隣家の小間物問屋の放蕩息子・仙太郎が通りかかり、おけいを慰め、螺鈿(らでん)細工の櫛(くし)をくれた。<br />その日から仙太郎のため巴屋を江戸一番の店にすると決意。<br />度胸と才覚のみを武器に大店に育てた女の一代記。<br />(解説・麻木久仁子)