師走も半ば、京都鷹ヶ峰の藤林御薬園では煤払いが行われ、懸人(かかりうど)の元岡真葛は古くなった生薬を焼き捨てていた。<br />慌ただしい呼び声に役宅へ駆けつけると義兄の藤林匡(ただす)が怒りを滲ませている。<br />亡母の実家、棚倉家の家令が真葛に往診を頼みにきたという。<br />棚倉家の主、静晟(しずあきら)は娘の恋仲を許さず、孫である真葛を引き取りもしなかったはずだが……(表題作)。<br />人の悩みをときほぐす若き女薬師の活躍。<br />