麻布十番の料理屋「味六屋」は政財界の大物がお忍びで通う名店だ。<br />流れ板の銀次と女房の町子が切り盛りする小さい店に、馴染みの政治家から珍しい注文が入る。<br />接待の相手は右翼の重鎮で、オーダーされたのは戦時中に中国で食べた‘狸汁’。<br />銀次はその料理にこめられた男の思いを叶えることができるのか――(表題作)。<br />舌よりも心に残る料理の味わいを描く傑作短編集。<br />