下町にひっそりと佇む呑み屋。<br />陰ある男、事情を抱えた女が、黄昏色の焼酎ハイボールで日頃の鬱憤を洗い流す。<br />屋号のないその店を人は「鬼門酒場」と呼ぶ。<br />ここで出逢った男と女の物語――。<br />ある画家と交渉にあたっていた牛尾田は、この店で仏頂面の美女・千笑と出逢う。<br />彼女をモデルにして描かれた肖像画こそが、牛尾田が求めていたものだったが……。<br />(「春の暮」)