バーナビー・ラッジ
第一の魅力はプロットの網を巧妙に張りめぐらした物語の面白さである。
ことにヘアデイル邸の惨殺事件をめぐる部分は、完全な推理小説。
ポーが最初の部分を読んだだけで、トリックを見破ったと豪語したのは有名な話だ。
人物造形の面白さはどうかというと、ゴードン卿の描写をはじめ、実在・架空を問わず、ディケンズ独自の細密画のようなペンによって、見事に提示されている。
特に絶品なのは女性、しかもいやな女の描写で、ヴァーデン夫人やミッグズなどは、一緒に暮したら生きているのがいやになってしまうだろうが、読んでいると金縛りにかけられたような魅力を感じざるを得ない。
本作の主人公はいつの間にか英雄になってしまうバーナビーであろう。
最初の主人公である理性の人ゲイブリエルがバーナビーという白痴にその名誉ある地位をあけ渡したのは、作者が作品全体のライト・モティーフを、理性から狂気へと変えて行ったからに違いあるまい。
(訳者あとがきより)
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