‘死にたくない。<br />商売がこんな大事なときに死んでも死にきれない’――町場の印刷工場の主・村野末吉は、病院のベッドで思った。<br />苦労を重ね続けた人生が、ようやく好転しかけていた。<br />彼は意を決して、縁者から多額の借金をし、最上等の個室に入り、心臓手術の担当医にも十分な謝礼をした。<br />そして無事、退院を果せたが……。<br />表題作ほか「湖畔の人」「ひとり旅」「九十九里浜」「賞」「春の命」など、人生の皮肉、孤独をテーマとする初期作品12編を収録。<br />