その老人はみごとな銀髪をしていた。<br />その瞳は異様な光を帯び、ノラ犬を思わせた。<br />加倉文吉、人はその男のことを「真剣師」を呼ぶ。<br />賭け将棋のみで生活をしているもののことである。<br />旅から旅へ、俗世間のしがらみをすべて断ち切って、ただただ強い相手を求めて文吉は生きる。<br />夢を諦めて師匠の妻と駆け落ちした男、父の敵を追い求める女、プロ棋士になり損ねた天才……。<br />将棋に取り憑かれた男と女。<br />その凄絶かつ濃密な闘いを描ききった連作集。<br />★