一生のうちに、ほんの一つか二つ。<br />きれいに光る、素晴らしい瞬間。<br />数は少ないけれども、きらめきを実感できる灯、人生にはそれさえあればいい――。<br />たとえばあの頃、私たち夫婦の心は通じ合っていた。<br />まだ、連れ合いは元気だった。<br />生きてきた道筋をふり返り、ふと気づく。<br />自分がいつのまにか手にしていたものに。<br />ささやかだけどかけがえのない一瞬が、確かに自分にもあったことに。<br />短篇の名手が手がける、12の追憶の物語。<br />