彼に抱かれると、自分の体をはっきり意識し、私は生き物としての自信を取り戻す。<br />一緒に暮らす前からそうだった。<br />思いやりと体力のある、確実なやりかた。<br />だから私は、不安になると彼を抱きしめてしまうのだ。<br /> (「長い影」) 永い虚しい日々のあとにおとずれた穏やかな時間。<br />私のなかで、彼のからだは水を跳ねる魚のようになる――。<br />「水の作家」内田春菊が描く生の渇きと潤い。<br />十一の短篇。<br />