佐渡金山奉行所への転任を上役からこわれた時、寺社奉行所役人黒塚喜介の頭の中を不意によぎるものがあった。<br />2年前、妻との仲を疑い、八丁堀与力を動かして伝馬町の牢へ送った無頼者弥十。<br />その赦免が間近いのだ。<br />いっそ、金山の暗い坑の底で、地獄の苦しみを彼に味あわせたい。<br />……喜介の胸に、どす黒い憎しみと嗜虐心のほむらが一気にふき上げて来た。<br />表題作「佐渡流人行」ほか、直木賞候補作「西郷札」など秀作短篇4作を併わせ収める。<br />