「わだしは小説を書くことが、あんなにおっかないことだとは思ってもみなかった。<br />あの多喜二が小説書いて殺されるなんて……」明治初頭、十七歳で結婚。<br />小樽湾の岸壁に立つ小さなパン屋を営み、病弱の夫を支え、六人の子を育てた母セキ。<br />貧しくとも明るかった小林家に暗い影がさしたのは、次男多喜二の反戦小説「蟹工船」が大きな評判になってからだ。<br />大らかな心で、多喜二の「理想」を見守り、人を信じ、愛し、懸命に生きたセキの、波乱に富んだ一生を描く感動の長編。<br />