牙の時代
楽しい渓流釣りは、一瞬で悪夢に変わった。
釣り糸の先にあらわれたのは、思わず悲鳴を飲み込むほどの「怒れる魚」の顔だった。
釣り上げられたそのヤマメは大口をあけ、いきなり指に噛みついた。
魚が人間に襲いかかるなどという話は、ほら話にしても聞いたことがない。
しかし、それだけではなかった。
雄猫三匹が幼女を襲い、飼い犬が鰻に絞め殺された。
スズメバチは人間を攻撃し肉を喰い、一日のうちに骨だけにした。
生きものはすべて、虫ケラから人間にいたるまで、染色体の異常で巨大化し狂暴になっていった――。
この不気味な変動の陰で、何かが静かに起こりつつあった。
恐怖の時代の前兆を描いた表題作のほか、読者を荒涼たる混乱の世界におとしいれる全6編。
書き下ろし解説を収録。
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