山ふところに抱かれた草津の温泉旅館に、きよ子は隠れるように暮らしていた。<br />20数年前に捨てられた女は、それっきり地獄をのたうって生きてきた。<br />あの男が今、客として現われる。<br />功なり名をとげた画家として…。<br />きよ子は決して男を許していなかった。<br />殺意は今も、きよ子の胸の奥のほうで静かにくすぶっていた。<br />表題作ほか、愛の地獄に生きる女たちがかなでる美しくも哀しい旋律全10編。<br />さまざまな形の女性像と恋愛の短編集。<br />