銀色に輝くヒマラヤの峰に神々しく光を放つ満月を観ながら、架山は思う。<br />一体、しあわせとは、人間の幸福とは何であろう。<br />「永劫」――それ以外、何も感じようがなかった。<br />そして架山はすっと背負い続けてきた湖上の出来事を、遠い一枚の絵として眺めることができるようになっていた。<br />――娘よ、今夜から、君は本当の死者になれ、鬼籍に入れ、静かに眠れ。<br />死者と生者のかかわりを通して、人間の〈死〉を深く観照した、傑作長篇。<br />