比田さんはいつも夜、浴場に行く。<br />よく私をさそった。<br />でも私は、一緒に行くのがためらわれた。<br />病弱であっても、私の乳房はふくらみはじめていた。<br />乳首は桃色になり、こりこりと固くて、触れるとうずいた。<br />針葉樹林にかこまれた湖畔の保養先で、病弱で孤独な一少女が体験したあの事件。<br />湯気にけむったような薄黄色いサビタの花の記憶も鮮やかに……。<br />原田康子初期の名作短編集、表題作ほか7篇。<br />