死にゆく母を見まもる日々、私は悪いことでもするように、そっとひとつ母の額にくちづけた。<br />そしてある日、母はかすかに「あした……」とつぶやく。<br />透明な悲しみに満ちた表題作「母の死」。<br />年の離れた少女・妙子との純粋無垢な愛の交流を、淡々と描く「郊外 その二」など八篇を収録。<br />漱石が絶賛し、戦前・戦後を通じてよみつがれてきたロングセラー『銀の匙』の作家・中勘助の珠玉作品集。<br />