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「鵺王」。
陸軍少将でありながら「ホトトギス」の俳人であった亡父の俳号だ。
自らも年老い、父に思いを馳せる演出家・充彦のもとに、四十歳年下の女から一本の電話が入る。
いい加減、子どもを認知してほしい――。
作家としても一線で活躍を続ける充彦だが、私生活は修羅の連続だった。
最初の結婚が破談になった折、女優・弥勒黒美とのありもしない醜聞で放送局を退職に追い込まれた。
愛人を同い年の演出家に奪われ、その娘しぐれを奪い返し、彼女との間に子を為した。
心休まる時のない人生だったが、因縁の女優・黒美と句会で再会したことで、充彦の晩年に思わぬ変化が訪れる。
女や父、芝居に小説を語り合い、和解したかに思ったのも束の間、黒美から充彦に宛て軍用トランクが送られてくる。
中にあったのは父の字で〈尼港事件〉と書かれた封筒だった――。
戦時下の外地で、父は高浜虚子の師事を仰いでいたのだろうか。
時空を超え、忌まわしき過去の扉が開いてゆく。
久世光彦を髣髴とさせる官能と怪奇、幻想。
醜聞の果てに男が見た真実とは。




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