彼女の存在、その破片
兄を殺した女? 彼女のことを聞きたいの?〈僕〉は、失踪した恋人を探して彼女の生涯にかかわった男女を訪ね歩く。
「ルリは少女娼婦みたいだった。
幼気(いたいけ)な、大胆な、ちょっと痛ましい」「ルリを見ていると、心を鷲づかみにされる。
うっかり油断すると、彼女の存在感に巻きこまれそうな感じなんだよ」「るりは、本質的にこわいもの知らずな女なのよ」「るりに触られると、どんなに疲れているときも、からだの隅々まで欲望で満たされた。
どこまでも貪欲になれそうだった」「るりはサーカスの綱渡りの少女、みたいな感じ? 安全ネットなしの」彼らが語る、これが、あなたなの? それは彼らの心の、割れた鏡に映し出された、無数の破片のようだ。
*何かの予兆のように、〈あなた〉の複雑な過去と、天才少年ピアニストだった〈僕〉の挫折と後悔に満ちた半生が響き合う。
それから〈僕〉は、少しずつ〈あなた〉のもとに近づいていく。
〈あなた〉の後ろ姿を見ながら少しずつ。
そこには、僕のピアノ、少年時代の調べが響きつづける。
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