窓にのこった風
ある日忽然と、ぼくの前から姿を消した妻・芽衣子。
個展を前にして芽衣子が借りていた海辺のアトリエ。
そこに残されていたのは6枚の窓の絵と、1羽の青いオームだった。
絵は2枚ずつ赤、青、黄の三原色に塗られ、額のガラスはみな叩き割られていた。
そしてオームは喋りだす「いいか、これが君と彼女との生活の結果なんだ」と。
ぼくは考えねばならない。
芽衣子とは何者か。
ぼくとは一体誰なのか。
オームが裁判官であり、ぼくが被告だった。
網膜の裏には、芽衣子の躯と顔が輪郭を残して揺れている。
これが、長い夏の始まりだった――。
自己不在から脱却しようともがく主人公を通して、社会の中で永遠に開放されぬ迷路に住まう我々人間へ宛てた、文学の贈り物。
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