初旅
稀代のストーリーテラー壺井栄が紡ぐ島の物語には、私たちがなくしてきた人の暮しが息づいている。
ミネの初旅は十六歳の秋。
高松への積み荷は四斗入りの醤油が八樽だけあった。
その頃、樽職人の職をなくした父重吉を手伝い、ミネは荷役をする荒い働きをさせられていた。
父と娘は自家の小船に乗って、まるで夜逃げでもするような真夜中の時刻に家を出た。
重吉は米やそうめんや着物など、高松にいる教師になった息子に届ける大きな信玄袋を肩にかけ、ミネは自分の着物の入った小さな風呂敷包みを抱えていた。
まっくらな夜であった。
高松へゆけばこれまで知らなかった何かが自分をまっている。
ミネの期待はいやがおうにも膨らむ。
【著者】壺井栄香川県小豆郡坂手村(現内海町坂手)生まれ。
坂手郵便局や役場勤務後、同郷の壺井繁治を頼り1925年に上京。
以後東京。
1941(昭和16年)『暦』が第4回新潮社文芸賞を受賞。
1955(昭和30年)『風』で第7回女流文学者賞を受賞。
『母のない子と子のない母と』で第2回芸術選奨文部大臣賞を受賞。
1954(昭和29年)映画「二十四の瞳」(木下恵介監督、高峰秀子主演)が公開され、全国的ヒットとなり、小豆島と壺井栄の名が一躍クローズアップされる。
更新中です。しばらくお待ちください。