フォカッチャは夕暮れに焼ける
とても短い物語の中に、入れ子状態でいくつもの想像力が重なり合う物語。
春の朝、朝食を終えた作家は、その日に書かねばならない短い小説について考えています。
熱いコーヒーを飲み、窓の外に広がる空を見て、彼は他者と自分との対照の物語を思いつきます。
そうして、彼が書いた「小品 1」は、想像上の女性との朝食の風景。
しかも、その女性は小説の中でも想像上の人物なのです。
さらに、コーヒーカップを手にした彼は、「小品 2」の着想を得ます。
喫茶店に向かう彼女を、喫茶店のテーブルの向うに座る彼女を想像し、その彼女が消える物語。
果たして、「小品 3」は必要なのか分からないまま、作家は更に想像するのです。
底本:『この冬の私はあの蜜柑だ』講談社 2015年11月【著者】片岡義男1939年東京生まれ。
文筆家。
大学在学中よりライターとして「マンハント」「ミステリマガジン」などの雑誌で活躍。
74年「白い波の荒野へ」で小説家としてデビュー。
翌年には「スローなブギにしてくれ」で第2回野性時代新人文学賞受賞。
小説、評論、エッセイ、翻訳などの執筆活動のほかに写真家としても活躍している。
著書に『10セントの意識革命』『彼のオートバイ、彼女の島』『メイン・テーマ』『日本語の外へ』ほか多数。
近著に『珈琲が呼ぶ』(光文社)、『くわえ煙草とカレーライス』(河出書房新社)などがある。
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