先代の遺言は不条理なものだった。<br />双生児の兄弟のうち生き存えた側に全財産を与える。<br />如何ともしがたい、四十年前に決まったことだ。<br />かくて兄の余命幾許もない今、弟の勝ちは目前。<br />よかろう、それも運命。<br />肯じえない定めには人為的な死を。<br />濡れぬ先こそ露をも厭え、ひとたび踏み惑うた人の道、悪行を重ねることに躊躇いなどない……。<br />癒されぬ渇きゆえに屈折した、哀しい愛の物語。<br />