定価のない本
神田神保町――江戸時代より旗本の屋敷地としてその歴史は始まり、明治期は多くの学校がひしめく文化的な学生街に、そして大正十二年の関東大震災を契機に古書の街として発展してきたこの地は、終戦から一年が経ち復興を遂げつつあった。
活気をとり戻した街の一隅で、ある日ひとりの古書店主が人知れずこの世を去る。
男は崩落した古書の山に圧し潰されており、あたかも商売道具に殺されたかのような皮肉な最期を迎えた。
古くから付き合いがあった男を悼み、同じく古書店主である琴岡庄治は事後処理を引き受けるが、間もなく事故現場では不可解な点が見付かる。
行方を眩ました被害者の妻、注文帳に残された謎の名前――さらには彼の周囲でも奇怪な事件が起こるなか、古書店主の死をめぐる探偵行は、やがて戦後日本の闇に潜む陰謀を炙りだしていく。
直木賞受賞作家の真骨頂と言うべき長編ミステリ。
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