その昔、N市では
兄は船旅に出る妹を見送ったが、それは彼女が乗る予定の船ではなかった。
ひと月後、妹から手紙が届く。
彼女は、その船では日付も時刻も現在位置も確認できないと書いていた。
手紙を読み進めるにつれ、内容はさらに常軌を逸していき……(「船の話」)。
ある日突然、部屋の中に謎の大きな鳥が現れる。
’わたし’は、なぜか外に出ていかない鳥の正体を突き止めようとするが……(「ロック鳥」)。
旅行から帰ったら、自分が死んだとアパートの住人に触れまわった女がいたという奇妙な話を聞かされて……(「六月半ばの真昼どき」)。
大都会N市では、死体から蘇生させられた’灰色の者’たちが、清掃や介護などの労働を人間の代わりに行っていた。
彼らに生前の記憶は一切なく、恐怖も希望も憎悪も持ち合わせていない。
しかしある時、’灰色の者’たちにすさまじい変化が訪れ……(「その昔、N市では」)。
日常に忍びこむ奇妙な幻想。
背筋を震わせる人間心理の闇。
懸命に生きる人々の切なさ。
戦後ドイツを代表する女性作家の粋を集めた、全15作の日本オリジナル傑作選!/【目次】白熊/ジェニファーの夢/精霊トゥンシュ/船の話/ロック鳥/幽霊/六月半ばの真昼どき/ルピナス/長い影/長距離電話/その昔、N市では/四月/見知らぬ土地/いいですよ、わたしの天使/人間という謎/訳者あとがき
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