隆盛をきわめた平出商店の悩みの種は、跡継ぎの娘リツと婿の修二郎の不仲であった。<br />が、無事に孫も生まれ、順調に思えた一族にも、容赦のない時代の波は、押し寄せてきた。<br />日露戦争、震災、愛する人の死、そして老い…。<br />昭和を孫の千鶴(ちづ)と生きるおさよの胸には、いつも、あの北の海の、「深い霧」があった。<br />(講談社文庫)