三十五になるさなえは、幼い息子の希敏をつれてこの海辺の小さな集落に戻ってきた。<br />希敏の父、カナダ人のフレデリックは希敏が一歳になる頃、美しい顔立ちだけを息子に残し、母子の前から姿を消してしまったのだ。<br />何かのスイッチが入ると大騒ぎする息子を持て余しながら、さなえが懐かしく思い出したのは、九年前の「みっちゃん姉」の言葉だった──。<br />痛みと優しさに満ちた〈母と子〉の物語。<br /> 表題作他四作を収録。<br />芥川賞受賞作。<br />