有紀子の同級生の夏子や直子は、「広島」で爆死した。<br />夏子の妹は、4人の肉親を失う。<br />皆、その後を耐えて生きる。<br />沈潜し耐える時間――。<br />事物は消滅して初めて、真の姿を開示するのではないか、と作者は小説の中で記す。<br />夏の厳島神社の管絃祭で、箏を弾く白衣の人たちの姿は、戦争で消えた「広島」の者たちの甦りの如くに見え、死者たちの魂と響き合う。<br />広島に生まれ育った作家が「広島体験」を描いた、第17回女流文学賞受賞作。<br />