暮れ方、峠を急ぐゼンの前に二人組の賊が現れた。<br />命か金か、そう迫る男は手練れとは見えなかったが、用心棒らしい連れの侍は凄まじい殺気を放つ剣の使い手であった。<br />かろうじてその刃を逃れたゼンは、もう一度、男と手合わせをしたいと望む。<br />男の名は、キクラといった。<br />都の道場でも抜きん出た腕前で、将来を嘱望されていた。<br />だが道場主の娘との縁談を断ったため、仕官の道も閉ざされ、挙句、殺しの濡れ衣を着せられ命を狙われていた。<br />