暦は陰暦八月、葉月。<br />テンとカイは大和国吉野の山中にいた。<br />精進潔斎のため滝行をするカイは目を丸くした。<br />上から何かが滝壺に落ちたのだ。<br />落ちてきたのは青年山伏。<br />よくよく顔を見ると、長尾平三景虎――今は帝より官位を授かった長尾弾正小弼景虎であった。<br />思いがけない再会に喜ぶ平三は言う。<br />「高野山へと詣でて世俗も捨て得度し、高僧となることを目指そうと思っているのです」