犬のかたちをしているもの
【第43回すばる文学賞受賞作】昔飼っていた犬を愛していた。
どうしたら愛を証明できるんだろう。
犬を愛していると確信する、あの強さで――。
間橋薫、30歳。
恋人の田中郁也と半同棲のような生活を送っていた。
21歳の時に卵巣の手術をして以来、男性とは付き合ってしばらくたつと性交渉を拒むようになった。
郁也と付き合い始めた時も、そのうちセックスしなくなると宣言した薫だが「好きだから大丈夫」だと彼は言った。
普段と変らない日々を過ごしていたある日、郁也に呼び出されコーヒーショップに赴くと、彼の隣にはミナシロと名乗る見知らぬ女性が座っていた。
大学時代の同級生で、郁也がお金を払ってセックスした相手だという。
そんなミナシロが妊娠してしまい、彼女曰く、子供を堕すのは怖いけど子供は欲しくないと薫に説明した。
そして「間橋さんが育ててくれませんか、田中くんと一緒に。
つまり子ども、もらってくれませんか?」と唐突な提案をされる。
自ら子供を産みたいと思ったこともなく、可愛いと思ったこともない薫だったが、郁也のことはたぶん愛している。
セックスもしないし出来にくい身体である薫は、考えぬいたうえ、産まれてくる子供の幸せではなく、故郷の家族を喜ばせるためにもらおうかと思案するのだったが……。
快楽のためのセックス、生殖のためのセックス。
子供を産むということ、子供を持つということ。
1人の女性の醸成してきた「問い」の行方を描く。
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