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枝垂れ桜と瑠璃の空

江戸時代も中ごろを過ぎたころ、相模の国のとある宿場町。
指物師の信吉は、よく晴れた春の日の早朝、得意先に向かうため街道の道を足早に歩いていた。
信吉は街道のわきにある小さな薬師堂の前でじっと手を合わせる若い娘を見かけ、ふと足を留めた。
娘は薬師堂で手を合わせた後、お堂のわきでそっとお堂を守るように枝を広げた枝垂れ桜に向かって手を合わせ、それから青い空を見上げじっと手を合わせた。
娘は人の気配を感じたのか、信吉のほうをちらっと見て恥ずかしそうに立ち去って行った。
お薬師様、枝垂桜、瑠璃の空…、三度も手を合わせて祈っていた娘の姿は、信吉の心をとらえて離さなかった。
娘の名前は「ゆい」。
ゆいは、町に目の見えない女の子がいて、寺子屋にもいかれずずっと家に閉じこもっているという話を聞き、自分がその女の子と一緒に遊びましょうかと申し出る。
ゆいは、目の見えない子でも音や触った感じで楽しく遊べるものをいろいろ工夫していく。
その中で木片を組み合わせていろいろな形を作る遊びができないかと思い、指物師に相談することになった。
大きなお店のおじょうさんの相談ということで、煩わしいことに関わりたくないと思いまったく乗り気でなかった信吉は、そのおじょうさんがあの薬師堂で見かけた娘だったことに驚く。
二人は目の見えない子でも楽しく遊べるものを作っていく中でお互いの心を通わせていくのだが…、体の弱かったゆいに残された時間はもうわずかだった。
表題作のほかに、「海の中の道」の一編を収録。




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