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妖愁

鬼才が技芸を凝らした最上級怪奇小説集 船の前方の空は緋色に染まりつつあった。
その彼方から何かが飛んで来る。
半透明の膜に包まれた白っぽい形……焼き捨てたあの船の積み荷と瓜ふたつの、人間そっくりで人間ではないもの。
なり切っていないものが、その数……無数。
……天を圧して飛翔して来るのだ。
私たちには二度と戻れぬ私たちがやって来た方角へと飛んでいく姿は、この上なくグロテスクなのに生の歓びに満ちていた。
天のどこからか、それらを讃える世にも美しい合唱さえ聴こえてくるような気がした。
(「帰還」より)「HORROR」とは恐怖小説ではない、「怪奇小説」のことだ。
正統にして異端の鬼才が技芸を凝らした短編10本を、本人の解説と共に収録。
・帰還・保が還ってきた・不敗剣・女の館・雪女のできるまで・切腹・渡し舟・祭りにはつきものの…・ある武士の死・夢魔製造業者●菊地秀行(きくち・ひでゆき)1949年、千葉県生まれ。
青山学院大学卒業後、雑誌記者の傍ら同人誌に作品を発表し、1982年『魔界都市‘新宿’』でデビュー。
1985年、『魔界行』三部作が大ヒット、人気作家の座を不動のものとした。
伝奇・幻想・バイオレンス小説の第一人者。
著作は300冊を超える。




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