猫恐(ねこおぢ)
殺したはずの猫の鈴の音が響く! 男は幻聴だと思っていたが… 不意に眼の前にポリバケツが倒れ、黒猫が道を横切って、ひばの生垣に消えた。
反射的に立ち止まると、猫にとりまかれているのに気づいた。
石の門柱のかげ、屋根の上、植え込みの下から、のぞいている。
それも一瞬のことだ。
猫たちは姿を消した。
敏彦は憮然として歩きだした。
猫はたんにさかりがついていたくらいのことであろうが、敏彦には、猫までもが、彼のやったことを見通して、非難しているように感じられたのだ。
(「猫恐」より) ホラー、怪奇、幻想SF作品を収録した短篇集。
*猫恐*猫の墓*かくれんぼ*木偶*窓のない家*アルメナの記憶*旅立ち*ゲッペルスの潜水艦*鬼哭●田中文雄(たなか・ふみお)1941年東京生まれ。
早稲田大学卒業後、東宝入社。
70年代を中心にプロデューサーとして映画製作に携わる。
1974年に『夏の旅人』で早川書房SF三大コンテスト佳作入選。
1975年に『さすらい』で幻影城新人賞佳作入選。
1986年東宝を退社して作家専業となり、ミステリー、ホラー、SFバイオレンスなどに健筆をふるう。
草薙圭一郎名義では時代小説、架空戦記も発表している。
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